明け渡し=奴隷化なのだろうか?いずれにせよそれは市場では解決しない

アドセンスは21世紀のフルブライト留学制度だというエントリーに小飼さんから、404Blog Not Found:アドセンスは21世紀の奴隷貿易だという批判をいただいた。

これは、ぱっと読むと「総論賛成各論反対」的な批判なのだが、その「各論」の中には、非常に重要な論点、むしろ総論より重要なポイントが含まれていると思う。

まず「総論」として「ロングテールが、従来の産業構造とは違うプレーヤーを違う組織原理でつなげ、新しい経済圏を生む可能性がある」という点、その「ロングテール経済圏」の可能性と重要性については、そんなに異論はないと理解した。

そして「各論」としては、その「ロングテール経済圏」という一般名詞で語るべきことを、「グーグルアドセンス」という固有名詞で語ったことが、非常によくないと、小飼さんは批判されているのだと思う。そしてさらに、「アドセンス」がよくない理由が二つある。

一つは、アドセンスの運用について、グーグル、特にその日本法人での運用について問題があるという話だ。

私は、これについては特に異論は無いのだが、そこまで重要な問題とも思えない。現状の問題については過渡的なもので、いずれ解決されていく問題だと思う。あるいは、これに問題があるとしたら、もっと「洗練された悪」になっていくはずである。だから、批判するなら、その進化形の「洗練された悪」を念頭において論じるべきで、現状をそのまま一般論につなげて論じるのは、あまり意味がないと思う。

しかし、もう一つの論点は重要な指摘で、これは私の致命的な見落しなのかもしれないと思った。

アジャンティ族(引用者注:アフリカ人を奴隷として西洋人に売ったアフリカ人)をアフィリエイター、仲間を自サイトのスペースと言い換えれば、西洋人はそのままGoogleとなるではないか。その「売り飛ばした」スペースにどんな広告が載るかがわからないという点でも、その点は似ている。

奴隷を買う側だけでなく、奴隷となる側の心性や態度についても問題すべき点があるという意味だと思う。

アドセンスは、重要な自分のサイトの一部を明け渡すことだ。この態度に抵抗を感じない心性が問題であったとしたら、グーグルの運用が透明性があって公平であったとしても、アドセンスを「ロングテール経済圏」の代表とすることには致命的な問題があることにある。

これは、私も共感する部分があって、似たような気持ちを次のエントリーに書いたことがある。

私のブログへの言及は、批判も含めて自分が発信するコンテンツの一部だと私は思っているのですが、これまで多種多様で、いろいろな顔を持っていました。ブラウザで見るブログとしてそれが展開されていれば、そこには、いろいろな顔があります。文体も配色もサイドバーの内容も長さもバラバラです。

しかし、そのかなりの部分が、はてなブックマークdel.icio.usや、これから出て来るもっと他のWEB2.0的なサイトに吸収されて行くのでしょう。それは、掲示板ともブックマークともブログとも違う、思いもよらない別のサービスであるのかもしれませんが、そのまだ見ぬサービスが、 "remixable" であること、そしてその為に規格化されていることは、まず間違いありません。何らかの形で多様性は制限されていくでしょう。

Web2.0のひとつのポイントは、「リミックス」ということで、リミックスされる対象はコンテンツなのだけど、個人的なサイトのコンテンツには自我が投影されていて、コンテンツがリミックスされるということは、自我の境界がいろいろな形で侵害されていくということだ。

アドセンスにスペースを明け渡すということは、まさに自我を明け渡して洗脳されることに等しいし、規格化されたSBMの中でいじられるということは、自我がバラバラにされてもみくちゃになるということである。両者には「自我(=自サイト)の境界が不明確になることに気持ち悪さ」点で、通じるものがあると思う。

だが、それにしても、こうまで肥大化した「技術」に対しては、鈴をつけようとする動機すらも失われがちになろうというところを、絶えずそれを意識する訓練を続けておくべきじゃあないのか?

id:umetenさんがおっしゃるように、こういう所で何が起こっているか常に意識する訓練は必要だと思う。

ただ、私はこの「気持ち悪さ」こそがWeb2.0の本質であるとも考えている。つまり、自立した自我が対等に対話するような形にはWeb2.0はならない。自我がバラバラにされてremixされることにWeb2.0の本質があって、その「気持ち悪さ」を通りこした所に快感があるような気がしていて、Web2.0の一番面白いと私が思う所はそこである。

だから、「明け渡し」という点にアドセンスの本質があるという点は完全に同意する。また、ここをフレームアップする小飼さんの指摘は非常に重要なものだと思う。だが、それだからこそ「ロングテール経済圏」を代表させるサービスとしては、Amazon Associatesよりアドセンスの方がふさわしいと考える(これは指摘されてから気がついたことで、まぐれ当たりですけどね)。問題は「明け渡す」相手が誰なのか?ということかもしれない。それがグーグルであるのか、私には確信が持てない。そうであるような気もするし、違うような気もする。

それと、この「明け渡し」という問題は、競争原理では解決しない。対抗サービスができることで、つまり市場によって解決するのは、奴隷を買う側の問題であって、奴隷になりたがる心性は市場では解決しない。私が、これが善であるか悪であるかについては当面留保(日和見)するが、これを問題とするならば、市場原理以外で、解決の方向性を探るべきだと思う。