NHK VS 朝日

NHK VS 朝日の問題で、記者会見で朝日の記事の嘘を告発した松尾氏は、三年前に国会で証言している。

第151回国会 総務委員会 第8号(平成13年3月16日(金曜日))


松尾参考人: 番制局長がこの件で呼び出されたという事実はございません。

つまり、朝日が主張しているのはこういうことだ。

  1. 松尾氏は、三年前に自民党と口裏をあわせて国会で偽証をした
  2. 1/9の取材で、突然気持ちを変えて偽証を認め、真相を記者に暴露した
  3. その後再び気持ちを変えて、記者会見で圧力の有無と取材時の応答に関して、嘘の証言をした

もしこの通りなら、国会で偽証をする時点で、事の重大性を理解してそれなりに覚悟を決めて充分理論武装しているはずだが、何とも頼りないことだ。そして、安倍氏は、わずか10日前に裏切った(あるいは、騙されてポロリとバラしてはいけない嘘をバラしてしまった)人間の証言をあてにして、全面的にそれに頼るかたちで、朝日新聞と全面対決することを決断したということになる。

安倍氏の側に他に選択肢がなかったかと言えば、そんなことはない。NHKをおさえこんで黙殺する手もあるだろうし、番組の内容が問題であるという主張ですりかえることもできる。もちろん、番組の内容に疑問を感じない人は、論点のすり替えだと非難するだろうが、そういう人はもともと安倍氏の支持者に成り得ない人である。自民党の支持者や無党派層に対しては、番組内容の批判が充分アピールする。

朝日新聞の主張を全面的に認めると、安倍氏は稀代の悪徳政治家であることになるので、そういう悪人が有力なオプションをあえて選択せず、非常にあやうい選択を取った理由がわからない。

一方、松尾氏は、朝日の報道姿勢について、「はじめに結論ありきで、無理やりそれに合わせようとする取材をして、一方的に虚偽の記事をこしらえる」と主張している。これは、私が持っている左翼のイメージと一致する。左翼の人は一般的に、主観的な価値評価や意見を事実と言う傾向があり、事実を客観的に確認することを重視しない傾向があるように思える。もし、自民党NHKが結託して報道への政治的圧力を隠蔽しようとしていると考えたら、それを告発する為には、多少の嘘はやむを得ないと考えるかもしれない。

また、朝日側の記事を見てもそういう痕跡が残っていて、例えば、NHK番組改変問題、本社の取材・報道の詳細 - asahi.com : 社会には


「もし呼ばれて行かないとどうなるか?」との質問にも「3、4倍の圧力(がかかる)。放送中止になったかもしれない」と答えた。

とあるが、当初の記事では「もし行かなかったら放送中止になったかもしれない」と、質問の部分から本人の発言になっていた。仮定の質問に答えることと、その内容を自発的に話すことには大きな違いがある。このような誘導、補完を実際はもっと大胆にやっているのではないかと推測される。誘導をもっと明確に拒否したら「取材拒否」、そうでなければ「一貫してそのように証言した」となるのではないか。

反権力の立場をつらぬくことは重要なことであるが、少なくともこれは「報道」ではないと私は思う。

政治と報道の問題も戦時性犯罪の問題も非常に重要なことだ。それについて、私はもっとよく考えたいが、ベースとなる客観的事実(を志向した報道)がなくては何も考えられないし何も信じられない。その為に一番邪魔なのが、朝日新聞だ。