ネットを「贈りもの」として見る

もし、この世界とうりふたつだけど2ちゃんねるだけが存在しない世界があったとします。そして、その世界にあなたが迷いこんでしまったと仮定して、以下の質問に答えてください。

  • あなたは、2ちゃんねるがどういうものかその世界の住人に伝えられますか?
  • あなたは、2ちゃんねるという奇妙なBBSが自分の世界に存在していることを、その世界の住人に納得させられますか?
  • あなたは、2ちゃんねるをその世界に自分で作ることができますか?(スクリプト持ち込み可、突入時点選択可)

私の答はいずれもNOです。こんな変なものが存在し得ることを説明し、納得させることはとてもできないと思います。GoogleAmazonなら説明して納得させられるでしょう。ひょっとしたら自分でそれを作ってしまい、大金持になれるかもしれません。2ちゃんねるは無理だと思います。そう思う人の方が多いと思いますが、どうでしょうか。

では、もうひとつ質問です。

  • 誰だったら、むこうの世界で2ちゃんねるを作れると思いますか?

もちろん仮定の話ですから、確定的な答はありませんが、おそらく「ひろゆき以外の人には作れない。ひろゆきならできる」というのが無難な答だと思います。

実際、ひろゆきがもう少し馬鹿だったら今ごろ塀の中だし、もう少し賢こかったら2ちゃんねるなんて危いものには手を出さず、何か別のことをしていたでしょう。ですから、この世界に2ちゃんねるが存在することの理由を考えるとしたら、「なぜ我々はちょうどよい馬鹿さかげんでちょうとよい賢さかげんのひろゆきを手にしたのか?」という謎について考える必要があると思います。

「デジタル証券」には、2ちゃんねるよりはいくらか必然性があると思いますが、EBayのように「彼がしなくても絶対誰か他の誰かが同じことをした」と断言できるものではなく、かなり2ちゃんねる的な要素があります。

技術的な困難があるものではないので、47氏があそこまで賢こすぎなかったら、我々は今この時点でデジタル証券を架空の提案でなく現物として目にしていたのかもしれません。あるいは、47氏Winnyとデジタル証券でもっと豊かなコンテンツが流通する別のパラレルワールドから来た人なのかもしれません。その存在をイメージできる人には伝えられるけど、そうでない人に論理的に説明するのは難しい。

この世にはいろいろ必然性のないものがあります。だいたい、通信についてきちんと勉強していたら、IPなんてものがここまで広がることが不思議です。IPとはこのインターネットの基盤となっているプロトコルです。「ネットワークはダムネットワークで賢さは端末にあった方が合理的」という主張はありますが、中央で管理されないネットワークがここまで世界規模に拡大するものなのか。

技術者としての目で見ると、昔のNiftyServeやiモードや銀行オンラインのように、きちっと管理されたネットワークじゃないと動く気がしません。どこの誰とも知れないパケットが自分の部屋をウロチョロしてるなんて不気味すぎます。何かの間違いのような気がします。技術に詳しくない人にはわからないかもしれませんが、2ちゃんねると同じくらい存在自体が不思議なものなんです、インターネットというものは。

実際、これを何とかしようという人はたくさんいるので、ずっとこうだという保証はありません。IPSECと言って、IP互換で全てのパケットに身元保証をつけるプロトコルもありますから、いつそれに切り替わっても不思議ではないんです。

こういう管理されてないネットワークで、世界中の人とつながれるというのは、実はあり得ないような幸運なのかもしれません。そして、歴史の中ではほんの一瞬のできごとなのかもしれません。だから、ネットは貴重な贈り物という感覚で大事に使うべきだと思います。