ヒットチャートの野生

ゲド戦記の第三部は、悪い魔法使いが生と死の間の扉を開けてしまい、世界がおかしくなるという話。俺はこれを見て、ここ10年の音楽産業のこと言っているように思った。

昔はヒットチャートには野生があった。レコード会社の幹部と言えども、自社の命運をかけた新人歌手が来週のチャートのどこにいるのか予想できなかった。だから、毎週のチャートを見ることそのものの中にスリルがあって、それ自体にワクワクしたものだ。

レコード会社にとっては、これを自在にコントロールすることは悲願だったのかもしれない。だが、それは生と死の扉を開け放つような行為であり、それを成し得た瞬間から、毎週毎週ヒットチャートは徐々に鮮明さを失なっていった。今、チャートを見ても何も感動がない。野生を失ないコントロールされたヒットチャートに魅力はない。ゲド戦記に書かれている、意味と命と色彩を失いつつ徐々に荒廃していく世界がこれにそっくりだったんだよ。

今年はミリオンヒットが1曲だけだったそうだが、音楽産業は市場をコントルールする能力を得ることで市場を失なったのだと思う。企業経営にきれいごとは不要だが、命あるものを扱う業者は商品を殺してはいかん。あたりまえのことだがそれでは商売にならない。