物語の力
「俺は完璧に正気だ。そして、正気な分だけ気が狂っている」
小物の数学者はこういう矛盾を含んだ言明を恐れるが、本物はそうではない。中でもゲーデルという奴は、こういう矛盾を愛し、これを数学的に厳密な言い方にして、あろうことかそれが真であることを証明してしまった。つまり、数学そのものをバラバラにぶっ壊してしまった。
その証明を理解できた数学者は、皆白目をむいてぶったおれ、半分はそのままくたばってしまい、生き残った奴も自分が正気なのか気が狂ってるのかわからなくなり、白髪になったり切れ痔になったりした。
よいファンタジーは全て、このような「矛盾」をかかえこんでいる。そして、その矛盾の力を逆用して何かを解放する。例えば、主人公は絶体絶命の窮地に陥っても平気でそこから生還してくる。生還する理由を説明したりするのは小物であって、本物は何も説明をしない。説明しない分だけ矛盾のパワーが一点に収束して、恐ろしいことになる。
その物語の力を読みとれる奴は皆白目を剥いてぶっ倒れ、半分はそのままくたばり、かろうじて生き残った奴も自分が正気なのか気が狂ってるのかわからなくなり、白髪になったりイボ痔になったり腰痛になったりする。