岸田秀の「起源論」

岸田秀の「起源論」という本を読む。面白い話がたくさんあるが、一番すごいのが、猿が人間に進化する時に、人間のひとつ前の段階の原人とか猿人とかゆう種族がなぜ滅亡したか、という話。いわゆるミッシングリンクという昔からある謎だが、このテーマに心理学者として発言するというのは、何を考えているのか?だが、これまで読んだどんな説明よりも説得力がある説を述べている。

岸田秀が繰り返し言っていることは「人間は本能の壊れた生物である」という主張だが、本能が壊れているのにどうして生存しているかと言うと、言葉やら観念やら社会やらそういう本能の代わりになるものをこしらえたからだ、という。説得力ある議論ではあるが、これまではどうしても「証拠を見せてみろ」と言いたくなった。ところがこいつ、とうとう証拠を出してきた。原人とか猿人とかは、「本能が壊れたけどその代わりを獲得できなかったから滅亡したのだ」という主張。アリは本能があるから黙々と働くけど人間はそうはいかない。犬は本能があるから教えなくてもSEXするけど人間はそうはいかない。観念を使ってけしかけないと種族の保存につながる行動はしない。原人はそういう観念(岸田の用語では「幻想」)の世界を作れなかったから滅亡した。人間はそういうものを何とかでっちあげたから生き残った。まあ、なんとも凄いホラ話だけど、これはダーウインなみの凄いホラ話ではないだろうか。