「スモールビジネスの国」と「強者と弱者の国」

アメリカでは、「スモールビジネス」というのがこれから流行るみたいです。

  • ベンチャーのように大金を集めない
  • バブリーに稼ぐのではなくて、小さいことを武器にして小回りをきかせて稼ぐ
  • 経営者(創業者)のアイディアと情熱と信念による経営
  • 成長指向ではない

というタイプの小さな会社による新しい経済が急速に伸びているが、気づいている人はあまりいない、というような話が、Rex Hammockという人のブログに出ています。派手な資金の動きがないから見過されているが、実はそういう層が厚みを持って育っているそうです。

この人がやっている My Business Magazine という雑誌で、37 Signals の Jason Friedさんをインタビューしたそうで、そのことが彼のブログのMy Business Magazine: The Next Small Thing - Signal vs. Noise (by 37signals)というエントリーに書かれています。電話でなく直に会いに来たマスコミは初めてで、有意義で面白いインタビューだったとか。

Small businesses are about passion and that's why they're so important. Passion and curiosity drive great things.

「スモールビジネスとはパッションについての話で、だから大事なことなんだ。パッションと好奇心がすごいことを引き起こすんだ」みたいな話。

Hammockさんが要約したFriedさんの経営哲学五カ条。

  1. 競合相手を下回れ(同種の製品の中で単純で使いやすいものにチャンスがある)
  2. 自分が使うようなサービス(製品)を作れ
  3. 自己資金で行け
  4. 必要な機能を網羅したリストを作って、半分だけ実装せよ
  5. 会議は捨て

彼のブログでは、Tibor Kalman: "We don't talk about planes flying. We talk about them crashing." - Signal vs. Noise (by 37signals)という記事も面白かったです。ティボール・カルマンというデザイナーの発言集で、この人は、雨の日に青空を独り占めできる傘をデザインした人みたい。

We live in a society and a culture and an economic model that tries to make everything look right…But by definition, when you make something no one hates, no one loves it. So I am interested in imperfections, quirkiness, insanity, unpredictability.

「なんでももっともらしく見えるよう必死になってる世界、そういう社会と文化と経済の中に私たちは住んでいる。でも、誰にも憎悪されないものは定義から言って誰にも愛されない。だから、私は、未完成なもの、気紛れなもの、気違いじみちててどうなるか予想もつかないものが好きなんだ」

What is said determines who listens and who understands. Graphic design is a language, but graphic designers are so busy worrying about the nuances - accents, punctuation and so on - that they spend little time thinking about what the words add up to. I’m interested in using our communication skills to change the way things are.

「何を言うかでそれが誰に届くか決まる。グラフィックデザインは言葉だ。なのにデザイナーは、ニュアンスやアクセントや句読点の有無みたいなことにかまけてて、その言葉が何を産み出しているかをちっとも考えない。だから、私は『物事の有り様を変えてしまうようなコミュニケーションスキル』を使うことに興味がある」

communication skills to change the way things are の頭に our がついていて、ここには「そういう力を僕たちはみんな持ってるはずじゃないのか?」というニュアンスを感じます。

アメリカが石油資本と悲惨な下層労働者の国であるというのも一面の真実ではあるんでしょうが、こういう「スモールビジネス」の国であるという側面も厳然と真実です。マイクロソフトもアップルもグーグルもそうだった。そしてさらに、「スモールビジネス」のままでビッグになれる国、なれる社会、なれる経済という、一歩進めた革新が進みつつあるようです。

似たようなことを言うのに、日本では、強者と弱者という言葉を使った巧みな釣りを仕掛けたりしないと、なかなか聞いてもらえない。

「未完成なもの、気紛れなもの、気違いじみちててどうなるか予想もつかないもの」は強者にも弱者にもなれません。その受け口は「スモールビジネス」の中にしか無いと思います。「スモールビジネス」という用語が、社会の中にそういうスペースを作るのです。21世紀は、「強者と弱者の国」と「スモールビジネスの国」が競争する時代になるのかもしれません。

(当ブログのJason Fried氏関連記事)