21世紀型企業のモデルとしての日本将棋連盟

突然ですが、社団法人日本将棋連盟という組織は、これからの企業にとって一つのモデルケースとなるのではないかと思いました。

それは、プロフェッショナルとスタッフという性質の違うメンバーが一つの目的の為に協力する組織ということです。

日本将棋連盟には、百数十人のプロ棋士が全員所属していますが、それとは別に事務局という組織があります。事務局の業務もないと将棋の対局は成立しません。

単純に考えて、7つあるタイトル戦の実施だけでもイベントの企画、運営として結構な仕事量があるような気がします。それぞれのタイトル戦ごとに最低4回の対局が行なわれるので、年に30局から40局以上、その多くが地方の毎回違う場所で行なわれるし、主催新聞社、その他マスコミ、地方の将棋ファン等関係者も多岐に渡ります。挑戦者となる棋士や対局数が直前まで確定しないという将棋独特の不確定要素もあります。

タイトル戦以外の一般の対局もたくさんあるし、日本将棋連盟のホームページを見ると、対局以外にも、さまざまな普及活動を行なっていることがわかります。

これらの業務を着実にこなす組織があって初めて、プロ棋士の対局が意味を持ち、収入につながっているわけです。

事務局のスタッフとプロ棋士は、同じ組織に属しているわけですが、仕事の性質にも待遇面にも大きな違いがあります。

プロ棋士の仕事は第一には将棋を指すことで、待遇は完全な実力主義で厳しく評価されます。年収は実力によって大きな差があるし、成績によって毎年変動します。棋士は各自が自分の判断で将棋を指す、一匹狼のプロフェッショナルです。

事務局については、ホームページを見ただけでは詳細はわかりませんでしたが、一般の企業や団体と同様に機能別の階層的な組織になっていると思われます。おそらく仕事の内容も待遇面でも一般の団体職員の方とそう違わない仕事になるでしょう。

棋士の内部の価値観は、基本的には将棋が強いか弱いか、という外部の世界と隔絶した独自のものです。この独特の価値観の中で切磋琢磨していくことから、将棋にコンテンツとしての価値が生まれるわけですが、それが外部の世界で商品価値を持つ為には、事務局の膨大な業務が必要です。

ただ単に棋譜を見るだけで「おお、これは凄い将棋だ」と名局を名局と理解できる人は、アマチュアの中では相当強い人に限られます。解説があり、これをドラマとして演出する報道があり、その他たくさんの普及活動が基盤となってはじめて、多くの将棋ファンがそれを楽しめるようになり、コンテンツとしての価値を産んでいくわけです。

このようなプロフェッショナルとスタッフの協力関係は、タレントとマネージメント事務所、プロスポーツ選手と球団職員等、さまざまな分野に見られますが、日本将棋連盟のケースは、比較的、相互の協力関係が比較的うまく行っている点と、プロフェッショナルの側が事務局の運営にも積極的に関与している点が特色だと思います。

ここにあるように、将棋連盟の運営に責任を持つのは、プロ棋士から選出された理事であり、バリバリの現役の方もいます。理事がそれぞれ担当の部署を持っていて、その部署を率いる形になっているようです。

プロフェッショナルが、プロフェッショナルとしての仕事を継続したまま、スタッフ部門の運営にも深く関わるという所に、組織としての特色があると思います。

ここが、これからの企業のモデルケースとなり得る点ではないかと、私が考えるポイントです。

これからの企業活動においては、ブロガー、プログラマ、デザイナー、トレーダーといった様々なプロフェッショナルの集団が業務の中に占める割合が増えてくると思われます。現在の所、そういうプロフェッショナルは、組織の一員としてスタッフの論理に取りこまれて仕事をするか、一時的な契約関係として、外部から協力するかどちらかになるケースが多いと思います。

これでは、プロフェッショナルの技能や独自の価値観を、組織の中に取り込むことはできないし、その技能を充分発揮させることもできません。

スタッフ主導でプロ棋士が事務局の組織の中に取り込まれる形で将棋連盟が運営されることを想像すると、やはり将棋のコンテンツと魅力は落ちてしまうと思われます。

たとえば、「振り飛車事業部」とか「相掛かり課」のような組織があって、部署ごとに分担して、集団で組織として定跡を研究していくようになっていたとしたら、今のような序盤戦術の発展はあったでしょうか。

将棋で考えると笑い話ですが、多くのプロフェッショナルは、これに近いような立場で仕事をしていると思います。

たとえば、ブログを事業に利用していくことは多くの企業が取り組んでいることだと思いますが、現在の所、多くの場合、組織に所属して組織の論理の中でブログを書いているか、外注スタッフとして書いているものと思われます。これでは、ブログを本当の意味で事業に生かすことはできません。

その観点から見ると、自分も参加しているので手前味噌になってしまいますが、アジャイルメディア・ネットワークでは、パートナーブログとして、ブロガーの独立性を保ったまま、協力関係を築こうという方向性が見られます。アジャイルメディア・ネットワークという会社組織と、パートナーブログのそれぞれのブロガーは、違う立場から協力関係を築いていますが、ブログというものの社会的評価や経済的価値を高めるという点では、運命共同体です。

ただし、パートナーブログが、アジャイルメディア・ネットワークから書く内容を指示をされたり、制限を受けるということはありません。暗黙に求められているのは、ブログという世界の内部の論理で互いに切磋琢磨することで、ブログとしての価値を高めていくことだと思います。将棋連盟がプロ棋士に求めているものと近い所があります。

アルファブロガーである徳力基彦さんが、運営に関わっている所も、棋士出身の理事がいる将棋連盟と似ていると言えるかもしれません。

この日本将棋連盟アジャイルメディア・ネットワークに見られるような、プロフェッショナルとスタッフの協力関係、すなわち独自の価値を作る人たちとそれを世界に位置づけていく人たちの協力関係は、これからの企業の運営において、グローバル経済の中でどのように独自性を確保するかという点で、重要な要素の一つとなっていくではないかと私は思います。

一日一チベットリンクダライ・ラマ体験 -- 先見日記 Insight Diaries