「みんな力」でプロを雇うメディア -- Spot.Us

Spot.Usは、できたばかりの社会企業家系のスタートアップだ。

"Spot Us" is a nonprofit that allows an individual or group to take control of news in their community by sharing the cost (crowdfunding) to commission freelance journalists to write important, or uncovered news stories.

"Spot Us"は個人やグループが自分たちのコミュニティー内のニュースをコントロールする仕組みを提供しようとする非営利団体です。クラウドファンディング(crowdfunding)という手法によってみんなで資金を用意し、フリーランスのジャーナリストが重要な記事や埋もれているニュースを書く為の活動費を提供します。*1

クラウドファンディング(crowdfunding)という用語については、次のページに説明がある。

Crowdfunding, inspired by crowdsourcing, describes the collective cooperation, attention and trust by people who network and pool their money together, usually via the Internet, in order to support efforts initiated by other people or organizations. Crowdfunding occurs for any variety of purposes, from disaster relief to citizen journalism to artists seeking support from fans, to political campaigns.

クラウドファンディング(クラウドソーシングにインスパイアーされた言葉)は、ネットによってみんなの協力、関心、信用を集めて、お金をネットワーク化してプールすることによって、個人や組織によって行なわれている活動をサポートすることです。クラウドファンディングは、災害からの復興、市民ジャーナリズム、ファンの支援を求めるアーチスト、政治的なキャンペーン等、さまざまな目的の為に行なわれます。

Spot.Usのトップページにある具体的な手順はこうだ。

  1. あるローカルコミュニティの中で、まだ語られてないストーリーの概要を示して、個人やジャーナリストがネタを売り込む
  2. どのネタが重要かということを、コミュニティのメンバーが、お金によって投票する(別記事によると一人一件数千円程度という金額を想定しているらしい)
  3. (投票が一定の金額に到達したら)ジャーナリストが事実を調査し記事を書く。編集者がそれをチェックする
  4. Spot.Usがまずフィードとしてオンラインで記事を公開し、(オフラインの)ローカルメディアと共同で、広い範囲に記事を配布する

私なりに要約すると、WHATを素人が決めて、HOWについてプロが責任を持つメディアということだと思う。

つまり、ネット上でユーザのランキングを取るという点では、はてなブックマークのようなソーシャルメディアであるけど、プロのジャーナリストが取材した上で記事を書いてきちんと編集者がチェックするというという意味では、従来のジャーナリズムの延長である。

その両者を、マイクロファンディングでつなげようという趣旨であるようだ。下記のインタビューで詳細が説明されている。

言わば「『みんな力』でプロのジャーナリストを雇うメディア」である。とても面白い試みであると思う。

これを立ち上げた、David Cohn という人は、もともとはジャーナリズム畑の人で、Knight Foundationという団体のコンテストで入賞し、$340,000の資金を得て本格的にこの活動を始めたばかりである。彼の経歴を見てみると、フリーのジャーナリストとしてWired誌等でたくさん記事を書いているようだが、「A top 50 Digger」なんていう記述もある。まさに新世代のジャーナリストという感じがする。

このプロジェクトが暗に主張していることは、「ソーシャルメディアの時代にもプロのジャーナリストは必要である」ということだと思う。実際、はてブ2ちゃんねるを見ていても「誰か取材してこれのウラを取ってまとめてくれないかな」と思うことはよくある。潜在的に需要と供給はあるので、道を作ればお金が流れる可能性はあるだろう。

クラウドファンディングという手法については、Kiva.orgという成功例がある。

ただ、これは、先進国から途上国への援助のように、お金を出す側から見たその金額の重みと、受け取る側にとっての重みが違うから成り立つ話だ。プロのジャーナリストの活動がどれくらいの費用になるのかはわからないが、ユーザが気軽に出せる金額を集めることで、継続的に活動しているかどうかを考えると難しい気がする。

でも、一方で追い風もある。今は、ネットによってどういう素性の人間かを知ることが容易であるということだ。David Cohn氏本人の経歴がそのいい例で、「A top 50 Digger」という肩書きは、彼がどういう人間なのかについての信頼性の高い証明書になっている。

Diggerというのは、はてなブックマークと同じようなdigg.comという老舗のソーシャルブックマーキングサービスにおけるブックマーカーということだ。そこで50位以内というのは、無数のユーザの支持が無いと獲得できない肩書きであり、これによって彼のオンラインでの影響力を知ることができる。

この仕組みでは、偽ジャーナリストが金だけ集めていいかげんな記事を書いて逃げるということもあるかもしれないが、そういうことをしたら彼のオンラインのidentityに半永久的な傷が残る。

だから、diggfacebooktwitterのIDをチェックすることで、そのジャーナリストがどれだけの人かユーザには簡単に分かるし、そこに示されているIDが、捨てハン的な臨時に作ったIDではないことだけを確認すれば、少なくとも彼が実力の範囲内でベストを尽くすことは期待できるだろう。

そして、この傾向(ネット上でのIDの重要性とその統合)は、これからOpen Social API等が普及することによってより一層強まっていくだろう。

「みんな力」でプロを雇うという考え方は、ジャーナリズム以外のアートやエンターテイメント等の領域でも通じると私は思う。

金を出す側は、自分が気軽に出せる範囲で金を出して、口も出す。作業の進捗も報告させるし、決断が必要な時にはスポンサーの意見を確認することを求めてもいいだろう。そこにおける「みんな」の意見は、これまでに実績がある各種のコミュニティサービスの手法によって統合されていく。金を出すだけでなく、情報を提供したり応援して元気を与える役割もスポンサーには求められるかもしれない。

そして、スポンサーの側はこういった活動全てを匿名で行えるのに対し、雇われるプロの方は自分のIDを出して行う。このIDには履歴がつながってないと金が集まらない。そして、作業の結果は、本人の意思に関わりなく取り消すことができない状態で、彼のIDとともにWEBの中に蓄積されていく。

厳しいと言えば厳しいけど、きっちり結果を出すか、何らかの形でスポンサーを納得させられれば、その活動を継続していくらでも広げていくことができる。余計な要素が入る余地がない。

うまく行けば、どちらにとっても良い結果を持たらす場になっていくだろう。

このSpot.Usという試みがどうなるかは全く予想がつかない。しかし、これが、今からやってくる時代のきざしであることは確かだと私は思う。

(補足)

このSpot.Usというサイトについては、Global Voicesのクリス・サルツバーグさんに教えていただきました(ありがとうございます)。ちょうど、サルツバーグさんの日本語ブログが更新されているので、よかったらそちらもどうぞ。

「みんな力」という言葉は、新井範子氏の同名の著書から使っています。この本については、下記を参照してください。

みんな力―ウェブを味方にする技術
みんな力―ウェブを味方にする技術

それから、Spot.Usは現在、Ruby on Railsができる技術者を求めているそうです。


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*1:この記事内の日本語訳は、どれもかなり意訳していますのでご了承ください。