「見えない次元の競争」の重要性

海部美知さんが、ドコモは「幕末の日本国」なのかもというエントリで、私のドコモはアップルの出入り業者になる覚悟があるのかに触れて、「現在ドコモの内部では鎖国派と開国派が抗争中なのではないか」という推測を書いている。

言われてみれば全くその通りで、頭の中のモヤモヤとしたものが一瞬だけ晴れる気がしたが、しばらくして「でもそんなことやってられる状況なのか」とまた複雑な気分になった。

NTTという組織は、私が「パラダイス鎖国」で書いた日本の特徴に似てるところがある。その昔ならば「積滞解消」*1とか、最近であれば「携帯電話の普及」「iモード普及」「光回線ウン千万」みたいな、「広くあまねく」みんなにサービスを行き渡らせることは得意で、そういった「みんなが賛成しやすい」目標がはっきりしているとガンガンやるし、中の人もそれに意義を感じて一体になって頑張る。でも、その目標が達成されてしまうと五月病に陥り、「広くあまねく」以外の価値を生み出そうとすると、それが何であるべきかに関して内部で分裂して抗争を繰り広げ、なかなか先に進まなくなってしまう。そんな体質があると思う。

そうなんだろうなあと思いなが、モヤモヤしながらフィードを消化していたら、こんな記述に行きあたった。

会社はものさしが見えることをやりたがる傾向にある。なぜかと言えば、競争の中では、ものさしがあるほうがモチベーションが上がるからだ。他社が計量・小型化戦略で来るなら、我が社もがんばれと号令をかけやすいのだ。顧客も初期段階においては、ものさしがあるほうが、ニーズを表現しやすい。顧客の声を聞けと言って、アンケートなり、インタビューをしても、いきなり新しいカテゴリーを言ってくれる顧客などいない。顧客の声をまじめに聞けば聞くほど、次元の見えるところで、イノベーションをしたがるのである。一番大きな圧力というのが(中略)内部組織の圧力である。資源投入や資源配分を受けないと推進できない。意思決定するときも、ものさしがあったほうがしやすいという側面がある。可視性の罠(ビジビリティ・トラップ)ー見えるほうに流れてしまうーこれを繰り返していると、結局ものさし上の競争になって、コモディティ化が進むということになる。

これは、id:ta26さんによる「イノベーションを生みだす力」という本からの引用だけど、海部さんが言う「NTTの体質」と見事にシンクロしている。この一連の考察が実に興味深い。

競合他者から見える競争ではなく、見えない競争をしかけないといけない

しかしながら、この概念(引用者注:「可視化」「見える化」)をさらに経営手法の中核にまで持ってこようとすると、『可視化の毒』が体に回ることになる。特に、昨今のような、『どんなモノやサービスも十分な水準を満たしている』時代に重要なのは、『見える価値』より『見えない価値』を創り出すことだからだ。

良いものは誰にとっても良い。便利なものは大抵誰にとっても便利だ。(中略)だが、見えない次元の競争のポイントは、好き嫌いだと楠木氏は指摘する。だから、全員が好きというわけにはいかない。

圧倒的な機能向上で非常に美しいグラフィックを追求したソニーPS3*5は、まさに見えやすい属性のイノベーションをめざし、Wiiは非常に評価しにくく、見えにくい次元を持って、カテゴリー・イノベーションを成功させた。本来ソニーは、『ウォークマン』のようなカテゴリー・イノベーションが得意な会社だったのだが、いつのころからか『合理的』な経営が標榜され、事業評価の指標ににEVA(経済付加価値)の導入といったような、『見えやすい』経営の方向に向かって行った。一方、ニンテンドーは、一貫して首脳陣からも『ソフトの経営はハードの経営とは違う』、『ニンテンドーは面白いゲームを追求する』という発言が繰り返され、『可視化しにくいが重要な価値』に会社をあげて取組んでいた。すなわち、経営のレベルで両者が全く違っていたようなのだ。

組織とは「何を価値とみなすかに関して一定の合意をした人の集団」でもある。

だから、その合意を変えようとすると人々を結びつけているきずなが断ち切られてまう。そういう意味では、その合意が組織そのものであるとも言える。

コモディティ化の進展が速い経済の中では、その「合意」の優位性が一番長続きする。そこにどれだけ「可視化しにくいが重要な価値」が組込まれているか、そこが勝負の分かれ目となる。

私はそんな風に理解したけど、これは面白い視点だと思う。

そして、id:ta26さんが、この考察の中でたびたび参照しているのがこの本だ。

BBT ビジネス・セレクト4 イノベーションを生みだす力 (BBTビジネス・セレクト)
BBT ビジネス・セレクト4 イノベーションを生みだす力 (BBTビジネス・セレクト)

ビジネス関連に限らず、いいブログをたくさん購読していれば、読む本の選択には全く困らない、ということの一例。

あと、おまけとして、id:ta26さんが「パラダイス鎖国」や海部美知さんに言及しているエントリです。


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