ヒトに向かう勤勉さと銃を今すぐ規制せよ
「厳しいだけの無能なコーチ」なら、たぶん子供の肘は壊れない。子供は野球嫌いになったかもしれないけれど、少なくともその子の肘には、回復不能なダメージが残ったりはしなかった。
小学生の子供をして、外から見ても関節の変形が明らかになるまで、 肘が全く伸びなくなるまで自分の体を痛めるのは難しい。裏返せばそれは、 そのコーチにはよっぽど人望があって、その子はコーチに嫌われたくなかったんだろう。
コーチは恐らくは、人間として「善」であって、しかも極めて勤勉ではあったけれど、 コーチとしての能力が欠落していたから、その存在は邪悪になった。
能力を伴わない勤勉さを賞賛してはいけない。
勤勉さとか誠実さとかがヒトに向かって乱射されると、こういう悲惨な事件が起きる。
medtoolzさんは、勤勉さそれ自体はは中立であり良くも悪くもない、問題は能力を評価するシステムである、状況定義を適切に行なえる人を評価するシステムを構築することだ、と冷静に言う。でも、私は感情的に「世の中の全ての勤勉さを規制すべきだ」と思ってしまう。
銃も勤勉さも、場合によっては有用であり時には必要であるけど、ごく特殊な例外的なケースを除き、人に向けるべきものではないと思う。
少し前まで、勤勉さとは第一には神に向けるものであった。それが流行らなくなるとモノに向かうようになって、モノに対して勤勉な機械が発明されると、これがヒトに向けられるようになった。
勤勉さを発射しないといられない人は昔もいたのだろうが、神に向けたりモノに向けたりできて出し口があるだけ、その害は少なかったのかもしれない。
私はどちらかと言えばリバタリアン気味の所があるが、銃と勤勉さについては、これを野放しにしておくべきではないと考える。どちらも免許制にし、ごく限られた人が厳重な審査を受けてはじめて所持できるようにすべきであり、免許を交付した後も、その用途についてしっかり監視すべきだ。
もし不適切な勤勉さを乱射している奴を見たら、致命的な事態になる前にさっさと刑務所に入れてしまうべきだ。
「その人の勤勉さと、状況ごとに必要な能力を持っていることは、必ずしもイコールでないんだよ」という表現は、正確ではあるけど、子供に教えるには複雑すぎる。
低学年の子には「勤勉さは悪」、高学年になったら「勤勉さを人に向けることは無条件に悪」でよいと思う。
日本から勤勉さと誠実さが一層されたら、どれだけ住みやすい国になるだろうか?
「割れ窓理論」じゃないけど、身近にある小さな勤勉さから退治していくべきじゃないかと思う。それを許すから、途方もない害悪をなす勤勉な奴がはびこるんだ。
地デジなんかその典型的な例じゃないかと思う。地デジの関係者がもっと怠惰な人ばかりで、早めにギブアップしてくれればどんなによかったか。これだけ世界の趨勢からズレていて、技術的にも経済的にも成立しようがないシステムを、ここまで維持するなんて、どういう勤勉さだろう。
もちろん、勤勉さを捨てたら、それだけで問題が解決するわけじゃない。
でも、勤勉さを捨てれば、それだけで頭が良くなくても問題がクリアに見えてくる。勤勉さに逃げこむ人は無能なのではなくて臆病なのだ。問題を理解していて、ある程度は先を見通しているから、勤勉さに逃げこむのだろう。
多くの場合、勤勉さを剥ぎ取ったら、そこに見えてくるのは、ゾッとするようなどうしようもない状況だ。そこに直面するのはつらい。でも、勤勉さが何も解決しないし一歩たりとも状況を回転させていないことを認めるべきだろう。勤勉さに逃げこむ以上は、心のどこかにそれを知っている自分もいるのだから、その自分を救い出すべきだろう。
そのどん底から考えると、確かに勤勉さの対極は状況定義だと思う。
http://www.patchedsoftware.com/FutureOfWebServices.mov
これが適切な状況定義の例。
技術的な話だけど、どういう若造が話しているのかだけは見てほしい。勤勉さの対極とは何かを体現している。かなり長いプレゼンの間、一度も詰まることがないし、いろいろなソフトの表示を切り替えて操作しながら説明しているけど、ほとんど失敗がない。
全く無駄な力が入ってないからだ。
中身は、Ruby on Rails というソフトの新しいバージョンの設計思想の説明だけど、これがまさに「状況定義」。人を相手にしてきたWEBに、これから機械対機械の対話を持ちこまなくてはいけない。Rails2.0は、現在の状況をそう定義して、ほぼその定義の適切さだけで、何も努力せずに自然に開発された。
適切に状況が定義されたら、後は、草木が成長し花が咲くように、何の努力もなしに、自然に物事が起きる。
Rails開発者は、無駄なプライドがなくて無駄な力が入ってないから、既にあるものは屈託なく躊躇なくそのまま使う。それを説明する彼も、いくつかのツールを屈託なく躊躇なく適切に使いわけて、見事なプレゼン動画を作った。彼が説明している内容と、その説明のスタイルはシンクロしていて、説明のスタイルだけは見てればわかると思うから、説明の内容がわからなくてもこの動画は見る価値がある。
Railsの関係者は、こういう風にいい感じに力の抜けた、イチローのような人が多い。適切な状況定義をして、無駄な努力はせず、プライドとか余計なことには引きずられない。そして、本当に力が必要な時には瞬発力を発揮する。
プライドを捨てた時に得られる助力や動員できる資源はこれから一方的に増加していくので、確かにキーポイントは状況定義なのだけど、実効性のある施策としてはまず勤勉さの取締りから。