「双方向」ということの痛みがわかってる識者もいる

ネットは、あらゆるジャンルで専門家を脅威にさらすような構造改革を起こしているわけですが、どのジャンルでも、反論と言うより「否認」という言葉がふさわしいような、今ここで目の前で起こっていることに目をつぶる系の言説をよく目にします。

オープンソースやブログやグーグルなんていうのは、ビジネスの常識を根本から覆すものです。実績のある人にとっては、そういう動きを認めることが、自分の足場を崩すことに直結しているわけで、やはり、これをしっかり受け止めるというのは、本当に難しいことだと思います。権威の側が追いこまれる前に自発的に大政奉還を認めるというのは、肩に何もしょってない私のような人間が想像するより、ずっと難しいことかもしれません。

そういう点で、面白いなあ、すごいなあと思えるPodcastが二つあったので、紹介します。

一つ目は、経済アナリストでテレビでもおなじみの伊藤洋一氏の番組です。

伊藤洋一のビジネストレンド」という番組の一周年を記念して、ポッドキャスティングについて語るという回なんですが、実に興味深いお話がありました。

  • テレビ経由の反響は内容が薄い、Podcasting経由は反論もあって有用なものが多い
  • 他のPodcasterが「伊藤はこう言うけど自分がこう思う」というpodcastを公開するような広がりがあったら面白い
  • 自分の意見を明確に断言するようにしたい(どうせみんな様々な意見を比較しながら聞いているから)

特に鋭いと思ったのが、「自分一人で全体像を俯瞰する」ということより、「ユーザ側がマッシュアップする為の素材を提供する」という視点をはっきりお持ちであるということ。特に、ブログで人のブログを引用して自分の意見を述べるというスタイルが、Podcastingでも一般的になるのではないか、という見通しは、技術に先行したビジョンであると思います。

もうひとつは、日経ビジネスの番組です。

9/22の「グーグルはなぜタダなのか地球を覆うネット民主主義 」というタイトルに惹かれて聞いてみました。これは、本誌と連動した企画で、本誌の特集は読んでないのですが、Casual Thoughts - 日経ビジネスのGoogle特集が半歩遅れながらもまともな件という記事で、id:ktdiskさんがこれについて言及しています。

その特集と連動した本題の所も、歴史的な視点があったりして面白いのですが、私が注目したのは「往復書簡2.0」というリスナーからのメールを紹介するコーナー。

ここで、異様に鋭いメールが紹介されていました。そのメールは、前回の本誌の特集に異議を唱えるものでした。前回の特集とは「40万円カー」というキーワードで中国の小型車生産に注目するものですが、「中国政府は見栄の為に小型車を規制していたが最近その規制を解除した。これはエネルギー資源の重要性に対する認識が変化したからではないか」「中国の小型車は開発途上国から資源を獲得する為の政策的な武器である」という視点が抜けているという趣旨でした。

力を入れて編集した特集記事に対して、「肝心な所が抜けている」という指摘で、しかも、それがかなり当たっているという話。

これに対する編集長のコメントが良かった。まず「新しい雑誌のあり方だね」で始まり、「我々もこれに恥じずに堂々とやっていきましょう」で終わるもので、一切、言い訳はしてません。また、逆にその指摘に対して無理に反論してカッコつけたり相対化しようとすることもない。「こっちが間違っている」とはっきり認めた上で、その意義をしっかり認識しているわけで、これをライブのトークの中でできるというのは、この人もやっぱり凄いと思います。

「双方向」とお題目で言うのは簡単ですが、本物の双方向はこのように痛みをともなうもので、その痛みの中に価値がある。

日経ビジネスの井上編集長も伊藤洋一氏も、ビジネス全体をターゲットとする専門家ですから、インターネットに関する知識は、広く浅いという印象は否めません。しかし、数少ない自分の体験から、見事に一般論やビジョンを抽出している所はさすがです。「識者」という言葉は、こういう人たちの為にあると思いました。