IT技術者は六ケ所村にある不条理を想像せよ!

ここは、たくさんのIT技術者に見ていただいているようですが、IT技術者ならば、巨大な技術的プロジェクトの背後にある不条理やいいかげんさをよく知っていると思います。

不条理とは、技術者のやる気を失わせる力学が巨大プロジェクトにはつきものであること。やる気の無い技術者が手を抜くことに必死になったり、ルールの抜け道を探すことに追いこまれていくこと。迷走したプロジェクトが表にかかげた原則からどこまではずれていくか等々。

特にデスマ方面で生き残っている方ならば、次に配置されるプロジェクトのスケジュールや組織図を見た時に、瞬間的にその建前の背後にあるどうしよもない実態が想像できてしまうと思います(そうでなけりゃ生き残れないからね)。

そういう想像力を、自分の仕事だけでなく、我々が住んでいる社会の中に広く向けるべきだと私は思います。

でも、自分は不条理の中で仕事をしていても、社会は回っている。たとえば、飛行機に乗る時に、この飛行機を動かしている管理システムを作ってるのが自分の会社だったらイヤだなあと思うかもしれないけど、普通そんな不吉なことは考えないし、そんな想像はしなくても生き残っていけます。

それは、普通、技術は経済に取り巻かれていて、経済には「復元力」があるからです。

あなたの会社と同じくらいいいかげんな飛行機を作ってる会社はあったかもしれないけど、そういう会社は2〜3機落とした所でつぶれます。経済が技術の外にある限り、いかに技術者が不条理なことに追いこまれて出鱈目なものを作っても、どこかでそれは淘汰され、最後の一線では何とかなるものです。

世の中には政治にも技術にも強い技術者がいて、そういう人が不条理の中で何とかモノを仕上げてしまう。不条理と同様に、そういう人知を超えた凄いスーパー技術者も、やはり、たいていのIT技術者ならば、見たことがあるか聞いたことくらいあるでしょう。一方にそういう不条理と戦う人がいて、世の中は均衡を保っていて、それで、経済の持つ「復元力」が作用する。

だから、自分の会社より世の中を信頼するのは、そんなに間違ったこととは言えません。

しかし、世の中の大半はそれで回っていても、稀に、経済に取り巻かれてない巨大技術というものも存在しています。たとえば、宇宙関連。アポロは月まで行って13号で失敗しても乗組員をつれ戻すことまでできたけど、スペースシャトルは失敗しました。2度も失敗しました。「復元力」が作用するほど試行錯誤を繰り返すことができないジャンルでは、不条理が容赦なく我々の前に露出してきます。

そして、不条理が露出する、もうひとつのジャンルが原子力だと思います。

原子力も宇宙船も責任を負うべき会社があれば、2〜3回大失敗したとこで、その会社はつぶれて、不条理は一掃されて技術的な正論が通るようになるでしょう。しかし、そのサイクルは長い、果てしなく長い。放射能半減期のように長い。それを受けいれてもいいのか、私は疑問です。

六ヶ所村ラプソディーという映画の監督の鎌仲ひとみ氏が、坂本龍一氏のRADIO SAKAMOTOという番組のゲストとして招かれた回を聞きました。

鎌仲氏は、以外なほど静かで冷静な語り口で、この再処理工場には次のような問題点があると言っていました。

  1. まず採算性に疑問あり
  2. 環境汚染の可能性(特に蓄積(濃縮)効果を考慮して)
  3. 核拡散の問題として(核爆弾の材料となるプルトニウムを大量に保持することの問題点)

私は、全体的に非常に論理的な話だと感じました。環境汚染の問題については反対の観点の意見と照らし合せてみたいとも思いましたが、核拡散(対テロ)の観点から言って、この今の時期に、日本のようなセキュリティに弱い国がこういうことを強行するのは、非常に問題だと思います。

鎌仲氏は、是非を早急に判断するより、まず情報を広く公開して、世論に問うてから決断すべきと言っていましたが、それには全く同感です。

IT技術者のみなさんは、再処理工場の設計も施工もプルトニウムの管理も、自分と同じくらい、いい加減な技術者がやってるんだろうなあ、という想像力を持ちましょう。自分のボスと同じくらい技術がわからない奴がトンチンカンなことを言って、何かおかしなことがまかり通ってるんだろうなという想像力を持ちましょう。

何だか、儲かる見込みもなくて将来性もないことを一生懸命やってるかわいそう人たちが、たくさんいそうな気配が濃厚です。

かわいそうな彼らは、かわいそうなあなたと同じく、自分の尻は自分でふくしかない。それは彼らの問題です。

でも、彼ら今かかえている不条理が、いつか我々の前に露出してきた時に、それに対する「復元力」を我々の社会は、持ち得るのでしょうか?

というか、これって本当に儲かるの?

ネットをやってれば自然にわかるように、人力+機械で広く分散して物事を管理する技術は、ここ数年で飛躍的に進歩しています。だから、採算性の計算は、本当を言えば今凄い勢いで大きく変化しているはず。典型的な集中管理の技術である原子力で、何十年も前からやってきた勢いで突っ走るのは、どう考えてもおかしい。計算できない不条理をかかえた集中管理型の巨大技術である原子力には、相当に明確なメリットが提示できない限り、これ以上期待すべきではないと私は思います。