それでもやっぱりモーツァルトを聴く者は悪徳商法に騙されない

「高度なネタ記事にマジなコメントをして、誤解を解くためにネタバラシをさせてしまう」という非常にヤボなことをしてしまった。

元ネタは、satologさんの「モーツァルトを聴くだけで悪徳商法に騙されなくなる」という一言エントリ。これは、

誰かが「モーツァルトを聴くだけで悪徳商法に騙されなくなりますよ〜」と言ってモーツァルトのCDを売り歩いていたら、お前が悪徳商法やないかっ!ってつっこむよね。

という「何の根拠もない商品をバカなナイーブな消費者に買わせようとする悪徳商法のパロディ」で、(言われてみれば)なかなかよくできたネタだと思うのだけど、私は、これをベタに受け取って、面白い主張だしそうかもしれないと考えて、ブクマで以下のようにコメントした。

何の根拠も示されてないけどなんとなく正しい気がする

それで、satologのSatoshi Tanabeさんは、上記のエントリーのような解説をせざるを得なくなってしまった、という顛末。ネタの解説というヤボな行為をさせてしまったヤボな私が悪い。すみませんでした。>> Tanabeさん

ただ、これで面白い発見をしたので、無闇に掘り下げてみる。

モーツァルトを聴くだけで悪徳商法に騙されなくなる」という発想は、ある種の心性をうまく代表していると思う。Tanabeさんは、それを批判的に観察していて、私はどちらかと言うと共感的。もちろん社会現象として悪徳商法には私も批判的なのだけど、それのベースとなるある種の傾向については、かなり共感的である。

Tanabeさんは、悪徳商法の(潜在的)被害者がどういう売り文句に釣られやすいのかをよく観察していて、「その手の人」がいかにも釣られそうなネタとして「モーツァルト〜」を作ったのだと思うが、その効き目が強力すぎて、(隠しているけど実は典型的な)「その手の人」であった私が、見事に釣られてしまったというわけだ。

ポイントは、Tanabeさんが「その手の人」を単なる馬鹿とだけ分別していたら、こういう高度なネタではなくもっと馬鹿なネタになっていたということ。

政治的な問題ではそういう出来のよくない皮肉やパロディをよく見かける。左翼の人が言う「右翼の言いそうなこと」、あるいはその反対は、キーワードこそ敵方陣営の使うものを羅列しているが、内容としては「単なる馬鹿の言いそうなこと」でしかなくて、外野から見てあまり面白くもないし、あんまり言いそうなことでもない場合が多い。

Tanabeさんのネタの背後には、もっと繊細な感性があって、「『その手の人』は馬鹿ではあるけど、ある特定の方向性(よじれ)を持った馬鹿である」という認識があるのだと思う。その「特定の方向性(よじれ)」がどういうものであるかという感性は、少なくとも私に関して言えば、正しかったということになるだろう。

もちろん、その「特定の方向性」については、Tanabeさんの方にも私の方にも言語化されてないレベルで広大な体系があって、たまたま「モーツァルトが〜」という特定地点で一致したにすぎないのかもしれない。しかし、両方の体系の中にそれぞれ繊細な色合いがなければ、こういう偶発的な邂逅は起こらなかっただろう。

私の中で、「モーツァルト」と「悪徳商法耐性」を結びつけているものは、実はその「繊細な感性」である。人を観察する時に、「馬鹿/まとも」「敵/味方」という単調なラベルづけに終わるのではなく、そこに何らかの色合いを見ることは重要だと思う。

色合いがないラベルはデジタルで、簡単に反転する。悪徳商法の人は、最初から自分に「味方」のラベルを貼るようにしむけるのではなく、まず自分に「敵」のラベルを貼らせておいて、それを巧みに反転してしまうのだ。警戒している相手に「味方」のラベルを貼らせることは難しくても、「敵」のラベルを貼らせることは簡単である。そして、それを反転することは、ある種の人にとっては簡単で、ラベルが反転しやすい人は悪徳商法や政治的扇動のカモになりやすい。

ふだんから、物事の中にたくさんの色合いを見出す訓練ができていれば、ラベルを反転することが難しくなる。モーツァルトはそういう感性を向上させるのだ。

ね。

だから、やっぱりモーツァルトを聴くと悪徳商法に騙されなくなるんですよ。それだけのこと。簡単でしょ。

あなた、たまには聴いてる?え?クラシックのCDは一枚も持ってない!

そんなことじゃ、今の時代、いつ誰に騙されるかわからないですよ。ちょっと考えてみた方がいいですよ。

もし、そういうCD買ったことないなら、この「モーツァルト名曲大全集決定版」がオススメ。セットで52万円、少し高く感じるけど、実は名演ぞろいでちっとも高くないんです。一生使えるものだし、これが無くて悪徳商法に引っかかることを考えれば安いもん。何しろ、実はこういう私もこれを聞いてから、恋人ができて仕事はうまくいって毎日が幸せで‥

(やはりアンカテ風ロジックは悪徳商法と親和性が高いですね)