ロングテールが売り出す純度の高い作品群
...My cup of tea...でかかっていた、恋に落ちて / Gut&Steelという曲がなかなか良かったので、ホームページから何曲か聞いてみました。
こ、これは、スゴイかも。
キャッチーなメロディーと落ち着いた雰囲気で完成度の高いアレンジなんですが、なんとも深い味わいがある演奏です。
ちょうどロングテール関係でいくつか面白い記事があったんですが、このGut&Steelの良さの中に、ロングテールという流通過程の質的な違いがあるような気がしました。
どちらも、音楽業界全体の売り上げの中で、いわゆる「メガヒット」の貢献する部分が減少しているということを、データに基いて分析しています。実証的な数字があることを除けば、「もうわかってるよ」という感じでもあるんですが、これをGut&Steelの素晴しい演奏をWEBで聞きながら見ると、一段と実感があるかもしれません。
一方、出版では次のような話も。
今、注目度は抜群の37Signalsだからこその数字かもしれないけれど、それをさっ引いても興味深い実績ですね。まず、PDFだけの書籍も売れるということ。つぎに、自分たちだけで、執筆、デザイン、販売、プロモーションを完結している点。小さい規模から始めて、自社だけでも売り上げと実績をあげつつ、実際の書籍の出版では、出版社との協同でさらにスケール拡大も検討。
「自分たちだけで完結している」という所が重要だと思います。これまでは、本でも音楽でも「自分たちだけで完結させて」ユーザに届けることが難しかった。ある程度以上の人数に自分たちの作品を届けようとすると、どうしても経済的な事情からいろいろな人の手が入ってしまいます。たくさんの人が関わっても曲がらない人か、その相互作用を生かせる人しか古い流通システムを活用できなかったのだと思います。
もちろん、「開かれている」ということは、スタイルやジャンルに関係なく普遍的に重要なことだと思いますが、作品を完成するまでの過程が開かれている方がいいか、「自分たちで完結」している方がいいか、それはその表現者の個性次第。加工しやすい個性か、薄めても薄まらないアクの強さがある人か、特別扱いできるだけのボリュームをさばける人でないと、メガヒット中心の流通には乗りにくかったんだろうと思います。
Gut&Steelの良さは、間口が広くて曲や演奏のレベルが高いということまでは誰にでも言えますが、そこに留まらない魅力的な何かがあって、そこには「自分たちで完結している」という要素が欠かせないような気がします。これだけ純度の高い音楽が聴く側の努力や特別のアクションを必要とせず、ネットにつなぐだけで聞けるというのがロングテールの良さなのかも。
37Signals本は、紹介ページを見ると、ビジネス書でもあり技術書でもありどちらでも無い本のようです。既存の流通に乗せる為にジャンルを明確にしたら、どちらに偏っても37signals風味が薄くなってしまい、これだけの売上は無かったのではないでしょうか。
ロングテールは、100×1から1×100という数式の組み換えみたいにとらえるのではなくて、そこに乗る商品の質の転換をもたらすものと見るべきだと私は思います。