勝ち組はベーシックインカムをすでに容認している

ベーシックインカムとは、「勝ち組が自分の取り分の多くを一般人にタダで分け隔てなく与える」ということだと思うが、GoogleSkype等のIT勝ち組企業は、すでにそれを実施している。磯崎哲也さんは「道に落ちてる直径30cmのケーキに出くわしたアリさんモデル」とそれを呼んだ。(参考: このエントリへの私の言及)

IT、特にネットの世界での生産性格差は途方もなくて、勝ち組が生み出す付加価値は、とても自分たちだけで食い切れるものではない。勝ち組企業が、「付加価値は全て原則的にはその創造に直接的に寄与した者に帰属する」という古い価値観に添って、ネットをドライブしようとしたら、彼らの利益は何百兆円になるだろう。

IT勝ち組企業は、自分たちに帰属する付加価値創造のごく一部しか受けとっておらず、積極的にそれを変えようとはしていない。貧乏人が普通にネットから恩恵を受けているというこの現状は、「勝ち組はベーシックインカムをすでに容認している」と言ってもいいと私は思う。

そして、これは決して、利他的な行為ではない。直接的な付加価値の創造に関わらない所で、莫大な付加価値を生むアイディアが育ち、それを予測することが不可能であるという、正確な現状認識があれば当然そういう結論になる。

GoogleSkypeが育つことを容認し、それによって間接的に利益を得ている。Skypeはネットユーザを増やし、既存ユーザのネットへの依存度を高め、それによって、より多くのユーザがより多くGoogleにアクセスするからだ。

SkypeGoogleが提供するベーシックインカムによって生まれ、育ての親と競争し、勝った方が次のベーシックインカムを提供する。

もちろん、Googleは、これからはSkypeが育ちすぎないように牽制し、場合によってはつぶしにかかるだろうが、事前に、「育たない種」と「適度に育つ種」と「育ちすぎる種」を識別する方法はない。いかに世界最高峰の頭脳集団であるGoogleと言えども、それを事前に区別することはできない。Googleにある選択肢は、「育たない種」と「適度に育つ種」と「育ちすぎる種」を全部育てるか、全部排除するか、そのどちらかであって、当然、Googleは前者を選択する。勝ち組企業は皆そういうふうに考える。

このことは、IT産業独特の特性と思う人も多いだろうが、ドラッガー等を我流に解釈すると、これは知識産業やイノベーションというものの特質であって、IT産業は単にそれが可視化されやすい、というだけのことではないかと私は考えている。

付加価値の創造プロセスを一般人が一般常識として理解して、それに添った倫理感と社会システムを持たないと、その国は経済大国にはなれない。コストの安いことだけが売りの製造基地にしかなれない。

そういう意味で、経済優先でモノを考える人は、ベーシックインカムのような考え方になると思う。負け組の人と経済より倫理を優先してモノを考える人は、簡単にはこれを受け入れないだろう。

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