冷戦構造を記憶する音楽

そうですよね。「冷戦構造が崩壊する」と言っても、誰も信じてくれなかった頃のことを口で言っても、知らない人には理解するのは難しいでしょう。

でも、その雰囲気を刻印した音楽ならあります。これを聞けば、知らない人でも分かるかもしれない。

この三曲に通じる独特の重苦しさは、時代の刻印です。ふとした偶然で自分たちの明日が無くなってしまうかもしれない予感の中で生きていた、あの頃の空気だと思います。

三人とも、ふだんは軽やかな音楽をやっている人で、これらの曲もアルバム全体の中で聞けば、後味は決して悪くありません。でも、ここにリストアップした三曲を聞くと、私には今でもずんと腹にくるものがあります。

特に、「ブルータートルの夢」は好きです。9.11の後で、「イマジン」が放送禁止になったと聞いて、私は「ラシアンズも放送禁止にするべきだ」と2ちゃんねるに書きました。これは、その栄誉に値する名盤だと思います。このアルバムの「チルドレンズ・クルセイド」にも同じ雰囲気がありますが、ウェザー・リポートのドラマー(オマー・ハキム)とマイルス・ディヴィスバンドのベース(ダリル・ジョーンズ)という、当時の世界最高のリズムセクションを使って、何と重苦しいリズムを刻んでいることか。

これを知っていることもアドバンテージだと思いますが、こちらは誰とでも共有可能なアドバンテージですね。

時代は進み、冷戦の頃よりずっとややこしい時代を我々は生きている。それはそうなんだけど、これらのメッセージが時代遅れになっているとは、私は思いません。時代をきちんと背負って、その瞬間を立派に生きれば、何か確かなものが刻印され、常にそこから力を汲み出せるのだ。そういうことの証明として、私も今でも時々、これらの曲を聞いています。