『暗号技術入門 ―― 秘密の国のアリス』
これはもう、歴史的偉業というべき名著です。
プログラマが社会貢献しようと思ったら、何より先に身近な人にPKIというものの持つ意味を知らせることだと、私は考えています。それくらいPKIの社会的な意味は大きいのです。そして、PKIつまり暗号技術は実は簡単なんです。本質を抜き出せば簡単、でもちょっとでも深入りし過ぎると難しくなる。そして、難しい所に深入りしないことは難しいです。だから残念なことに、プログラマでさえもPKIを敬遠してしまう人が多い。
この本は、PKIの本質的な部分を過不足なくわかりやすく説明しています。PKIの中で重要で絶対知るべき部分に絞りこんでいる。そして、その部分は意外に簡単なんです。まして、結城さんが説明してくれたら誰でもわかります。これがきちんとできた本は世界初かもしれない。非常に重要な本だと思います。
もし、あなたがプログラマなら絶対これを読むべきです。もし、あなたがプログラマでないなら、自分の最も身近にいるプログラマに(今時一族郎党に一人くらいいるでしょ)これを読ませるべきです。
唯一の難点はタイトルですね。PKIは暗号とはほとんど関係ない。暗号って言うから「関係ねえや」と思われてしまうんでしょうね。「メールにハンコを押す方法」とか「認証技術入門」とか「デジタルハンコで勝ち組になろう」とかの方がよかった。
PKIは認証する為の技術であって、暗号はその実装の為の手段です。PKIを暗号技術と言うのは、自動車学校のことをエンジン学校と言うくらいおかしなことだと思います。「エンジンは我々の生活に必要不可欠なもので、大変身近なものです」と言うと「嘘だ」と思うけど、高速道路とか道路交通法とか整備工場とかガソリンスタンドとか免許証とか、そういう車にまつわる社会的システムは、生活にとって重要だし、政治的な課題にもなるし、社会人としての常識の範囲です。それと同じように、PKIはネットを使う人がみんなで考えなきゃいけないテーマです。