My best of 田口ランディ

94年頃だと思うけど、会社で「インターネットというものがあってこれは凄いことになる」と誰かれかまわずわめいていました。その頃は、個人向けダイアルアップのサービスがIIJとリムネットくらいしかなくて、ソフトウエア技術者でも「インターネット」という言葉を知らない人が多いくらいでしたから、なかなかその意味が伝えられず、私はもどかしい思いをしていたのですが、そんな中である人からドキっとすることを言われて詰まってしまったことがありました。

「そういう凄いネットワークがあって、ソフト開発にも大きな影響を及ぼすことはわかった。君が言うのだから、そのことはまず間違いがないと思う。しかしな。『それで個人の生活が根本から変わる』っていうのはどうかな?そんなものをどうして個人が使うの。それはありえないんじゃないの?」

今考えると、この人の発言もトロイとしか思えないかもしれませんが、こういうプリミティブな疑問ってなかなか口にできないし、結構鋭いこともあります。私にはだんだんこの言葉が重くのしかかってきました。その後、確かにインターネットは大ブームになり、うちの会社もインターネットに接続して、WEBやメールを当たり前のように使いはじめたのですが、確かに、私のプライベートの生活はなかなか変わらなかったのです。

もちろん、自分の趣味に関連するサイトはいろいろチェックして、仕事以外のことにもいろいろ使いましたが、「それで君の生活はどこがかわったのか?」という問いかけの声がいつも私の中で響いていました。やっぱり、私が言いたかったのは、人の人生がインターネットで変わるということです。インターネットが本当の意味で自分をゆさぶるような体験に導いてくれなければ、自分のあの時の発言は嘘とは言わないまでも、虚しい言葉になってしまう・・・私はすこし焦りはじめました。

しかし、今なら私は自信を持って言えます。「インターネットは私の人生を変えてしまったよ」だって、*田口ランディはインターネットで知ったんだから。インターネットがなければ、私は田口ランディを知ることはなかったのだから。

この人のエッセイは、最初にPC-WORK HOT MAILというメールマガジンで読みました。これは、PC関係のニュースを送ってくれる日刊の無料のメールマガジンで、仕事上、重宝していますが、これに彼女の(ランディという名前だけど女性なんです)のエッセイが出ていたのです。

この人は、凄いライターだと思います。どういうライターでどこが凄いのか、うまく説明できないのですが、WEBでいっぱい文章を読めるのですから、何も説明する必要はないですね・・・ということで、「My best of 田口ランディ」です。

私が最初にこの人のことを気にするようになったのは、カインの反乱 -若貴兄弟-再び孤独の荒野を歩く -元X-JAPANの TOSHIさん-の二本です。どちらも、当時ワイドショーを騒がせていたネタで、あちこちで取り上げられていて「いまさら」という感じがしたのですが、内容を読むうちに世間が週刊誌やワイドショーに無意識に期待する決まり切った見方からはずれていくので、何となく気になっていたのです。

そして「やられた!」と思ったのが、こころの教育ってやつ。私は、宮台真司という人の言うことは、いつも鋭いことを言うと思っていたのですが、何か違和感みたいなものがあって、自分でうまくそれが説明できなくてずっともどかしい思いをしていました。それが、このコラムを読んで、自分の感じていた違和感が「そうか!そういうことだったのか!」と納得できたのです。(でも、私はここで述べられている批判には全面的に同意できない。彼が「同じシステムのなかで機能」する言葉を使っているからこそ、私には彼から教えられるものがあるからです。同意はできないけど、この「渡辺真理」を持ち出した批判は鋭いと思う)

この人はいわゆる「作家」のようにすました所がありません。文体も旅行雑誌の連載みたいで、あまり格調高いとは言えないし、この「渡辺真理」もそうだけど、何か文章のプロとしては、一種の禁じ手に近いような手を使います。そういう「禁じ手」的な技のひとつが、自分の体験談を生で使うという手です。いわゆる「作家」の体験談は何か視点の持ち方みたいな所にひとつのこだわりみたいなものが見えてくるのが普通ですが、田口ランディは子供の作文のようにベタっとした生の自分の視点で体験談をそのまま書いてしまいます。これって、体験と体験をどう受け止めたかという生の自分で勝負していて、自分の文章で勝負することを逃げているように思えるのですが、まっすぐな言葉の模索は感動しました。うまく言えないけど、「これずるい、ずるいけど感動する」としか言えません。

こういう禁じ手的技だけじゃなくて、彼女の文章は「書物」の側から言うと、どうも下品で乱暴な文章しか言えないけど、非常に繊細である種の感受性を感じさせるところもあります。そのあたりの不思議な感覚はネットワーク道を極めるを読んでよくわかりました。ここに書いてある「たったの1行の書き込みから、相手の性質を察知する」という能力を彼女が本当に持っていても不思議ではないと思います。月並みな言い方になってしまうけど、彼女は文章を書くという行為をパソ通からはじめて、インターネットで鍛えた人のようです。

ここまで読んで「こいつは田口ランディのことをほめたいのかけなしたいのか」と思う人もいるかもしれません。はっきり言ってほめたいのですが、どうもこの文章は混乱しています。書いてみて思い知りましたが、この人の凄さって本当に文章にしにくいですね。では、最後にもうひとつ紹介して、終わりにします。世紀末な大晦日。これは野坂昭如に目をつけていたことがさすがだと思いました。

なお、彼女のコラムは http://www.pc.mycom.co.jp/pcwork/column/dream.htmhttp://news.jp.msn.com/worldreport.asp?id=randy&vf=1で読めます。もし、他に読めるところがあったらぜひ教えてください。

(2004/01/23 追記: 元記事は文中にリンクがはってあったのですが、ほとんど読めなくなっているので、移設にあたり省略しました)